実験田プロジェクトのご紹介

■背景と経緯

このプロジェクトは、2012(平成24)年に企画し、2013(平成25)年度から取り組みを始めました。
当地の自然自生の田んぼのホタル(ヘイケボタル)は、その生息数も生息地域もどんどん減少しています。
かつて群れをなして泳いでいたメダカは、今や絶滅が危惧されています。カエルの鳴き声もずいぶん静かにりました。
本物の赤とんぼ(アキアカネ)も、この10年ほどは見受けられなくなりました。
(※見かけるのは赤とんぼに見まちが
えられるウスバキトンボばかり)このように、特に水辺・水田をすみかにしている生き物たちが著しくその姿を消しており、
中には、もうすでに何年も見受けなくなったものもたくさんあります。

タガメ・タイコウチ・ゲンゴロウ・ミズスマシなどがそうです。
「なぜこんなふうになってしまったのか?」 それは一つには農薬(殺虫剤・殺菌剤・除草剤)のせいだと言われてき
ました。昭和40年前後に強い農薬が使われたときに、はっきりと生き物が消える現象が現れました。その後、農薬
の規制ができ、確かに一部の生き物は復活し生き残っています。でも、
“安全性が高いといわれる農薬でも、それ
は特定の生き物に対することであって、他の多くの生き物には大きな影響があるかもしれません。また、農薬のある
種の成分や分解物が複合的にはたらいてしまっているかもしれません。また、最近の研究でわかってきたことですが、
ある農薬が実は赤とんぼのヤゴが羽化するのを妨げていたという実例があります。

そこで、私たちは、農薬に頼らない(完全無農薬)水田で、生き物の生息のようすや変化を調べてみようとい
うことにしました。そして、実際の
としての生業が成り立つかどうか、無農薬のメリットを活かした産物の質
や副産物の価値をもっと活かせるのではないかなどの
実験も、生物多様性の復活をめざすと同時に進めてみよ
うというものです。

 それは、いかに環境にとって理想的で出来た米も安全でおいしいものであっても、農業として適切な利潤が
確保されなければ、
良いことはわかっていても長続きするはずがないからです。未来へ繋げていくためには、
水田そのものの進化
にも目を向けていくことが重要と私たちは考えています。


●  実験田の造成

「実験田」の見取り図

〇 「魚溜り水路」

 土地改良で整備されている田んぼ約2400u(80×30m)の中に、「魚溜り水路」
      (幅50cm・深さ水田面から50cm・長さ70m)を造成しました。

 水路の土留めは、コンクリートではなく、木の板と杭
田植え前、田んぼに水が入ると、「魚溜り水路」と田んぼは水でつながり、
魚などの生き物が行き来できる。

夏〜秋には、水路で、たくさんのメダカたちが取れる。

土地改良によって造成された、現在の用排水分離型の水田においては、たとえ水田で産まれ育った生き物がいても、
夏の「中干し」や稲刈り前の落水のとき、多くの生き物が排水路に流れ落ちて、二度と元の水田にもどることができません。
特にメダカやフナなどの魚類にとっては厳しい環境です。
 これを少しでも水田に留めておこうというのが、水田内「魚溜り水路」です。
特に水が供給されない秋〜冬場には、田んぼは土が乾いて「乾田」となり、排水路の水も枯渇する環境になります。ほと
んどの生き物が生息できません。この「魚溜り水路」は、少しでもこれを救おうとする命の水路でもあります。

〇 無農薬・化学肥料不使用の稲作

また、水稲栽培(米作り)に際しては、農薬(殺虫・殺菌剤、除草剤)を使わず、さらに化学肥料ではなく有機肥料分によ
 る 栽培をしています。

夏季の畦畔(あぜ)にはさまざまな草が生え、緑が映えます。水田内にも水田雑草がはびこりますが、これらを手や器
 具で (物理的に)刈り取ったり取り除いたりするなどの作業もしています。

 無農薬栽培のイネのすばらしい特色があることは確かです。手間とコストをも考えながら、数年続けて、無農薬・有機栽
 培の 術・智慧を習得しながら、新しい農業と自然環境のあり方を追究しています。


 〇 実験田での生物調査

 実験田では、どんなイネの成育状況が見られるか、近隣の慣行農法による水田との比較しながら、定期的に観察・調査
 をします。
そして、水田内の生き物の様子はどうか、いくつかの指標生物を中心に定期的に観察調査をし、経年変化を見
 てみます。


 〇 実験田での水・土壌調査

 これまで数年かけて実地で調査、収集した稲沢市祖父江町各地の水田・水路での調査データを参考にしながら、無農薬
 による 実験田の水や土などの変化も調べる計画です。イネの成育・生き物の生息などと関連させながら考察を進めてみ
 たいと思います。


 〇 ホタルの種の保存

 この実験田のある場所及び周辺では、「実験田」を造成をした2013(平成25)年以前から、ホタルの飛翔は観察されなく
 なって いました。

 実験田では、種の保存を兼ねた「ホタル里親プロジェクト」と連携して、自然環境への定着に関する研究を進めています。
 自然自 生している祖父江地区といえども、多くの地点で消滅が進んでいる現在、
祖父江種の保存は急務となっている
 と考えるからです。

  これらの調査・研究・運営にあたっては、岐阜大学 応用生物学部 水利環境学研究室の指導を受けながら協働研究を進めて
   きました。

  また、実験田での取り組みは、稲沢市環境保全課・教育委員会の支援・後援を受けており、市内小中学校の学習への資料提供
  や出前  授業、市委託の自然観察会も行っています。
  このプロジェクトのさらなる夢は、この実験田近辺の排水路などにおける生物多様性の復元、さらには、
   この地域の水系の環境保全・復元ネットワークの構築
です。
  そして、豊かな自然環境の保持・復元ができ、そこで産まれる安心安全な食材の供給と農の生業の両立が
  できたら、衰退の可能性があるこの地域の元気づけができる
・・・これは見果てぬ夢でしょうか?
  それに向けた少しでも明るい資料が残せればと思っています。まずは、若い世代に少しでも想いが伝わることが
  現実的な夢なのです。
   実験田のねらいと自生ヘイケボタルの基礎知識

・ ホタルの中でも、祖父江のホタルは自然自生の「田んぼのホタル:ヘイケボタル」
・ ヘイケボタルの生息場所は、主に水田や周辺の浅い水路
  (ホタルの生活史の中で、畦などの土の駆け上がり部も必要:U字溝等は不適)
・ ヘイケボタルの幼虫(水生)の餌は、水田等に棲むタニシやモノアラガイ等の巻貝
  (一方、ゲンジボタルは清流にすみ、餌はカワニナ)
   実は、水生ホタルはゲンジボタル・クメジマボタルとヘイケボタルの3種類だけ
   (ホタルの仲間の幼虫は、陸生のものがほとんど)
・ 水生の幼虫が蛹になる場所は主に畦畔(あぜ)のかけあがりであり、草陰・適度な湿り気が必要
・ ホタルの生息を守るには、農薬問題の他、水田の水利環境が重要
  (ホタルの越冬は水生の終齢幼虫であり、冬の水分がカギ)
  故に、ホタルが自然自生するには、水田での稲作の方法と深いかかわりがあり、農薬(殺虫・殺菌・除草剤)の使用
  ・化学肥料の多用と の因果関係がある。

    つまり、無農薬・有機栽培が最適。そして、理想は田んぼの冬季湛水。
    (ヘイケボタルは水生の終齢幼虫で越冬)
・  稲作従事者は、作業効率・米の収量確保などから、農薬使用から離れられない現実と認識がある。
    (大規模経営では、作業の適時性と効率の実情もある。)

・ ホタルを守る=豊かな自然環境の保全であり、水利環境を整えた無農薬・有機栽培が理想。

  無農薬・有機栽培・(特別栽培)が農の生業として成り立つのではないか(農業ベンチャービジネスの可能性)を提唱したい。
 無農薬・有機栽培をすれば、水田除草などの手間はかかるが、水田における見事な生物多様性が確実に具現し、老若男
  女感動請け合い!すべての話はここから始まる?

  (「農」の生業が成り立たない限り、水田のホタルは限りなく絶滅に向かう)