ホタルがたくさん生息している所には、多様な環境要素に支えられていろいろな生き物が共生する生態系(生物多様性)があります。
つまり、生き物にとってよい環境であり、人間にとっても安全で健康的な環境と言えます。人の心をも癒します。よって、地域の文化や民俗
に大きな影響を与えてきました。現在の日本にあって、これからの情操教育・環境教育、さらに環境行政・地方行政政策にまで関連させて
考えるべき基本的な事柄ではないでしょうか。

ところが、祖父江のホタルも2000(平成12)年頃から急激に生息数も生息場所も減少しているようです。これは、赤とんぼアキアカネの減
少のようすとそっくりです。どちらも羽化前は主に水田にすみ、羽化の時期も田植え後のほぼ同じ頃です。
「土地改良」の用排水分離、冬
季の乾田化という水利環境の変化は、水生生物にとっては非常に厳しい環境で、その数は大きく減少しました。
もともと田んぼで産まれ育
つメダカが、今や、絶滅が危惧されているのもうなずけますが、この頃から祖父江のホタル(ヘイケボタル:田んぼのホタル)やアキアカネが
激減していることに目を向けてみたいと思います。

 豊かな環境とは何だろう・・・

 虫の喰った野菜はダメで見栄えのよい野菜を求め、蚊やりに蚊取り線香は古くからの文化とはいうものの、蚊が一匹部屋に現れたら
大騒ぎ、締め切った部屋で電気蚊とりを平気で炊き続ける人がいっぱいです。また、畑地でも畦道でも、草が繁ると
除草に目が向き、そ
の作業効率から除草剤を多用するなど、目の前の事象そのものや効率に意識が向き過ぎている風潮があります。派生的に何が起こるか、
本当に大切にすべきは何かと、みんなが本質を見つめ続ける冷静な目を養うことが大切だと思います。

畑のある害虫を駆除しようと殺虫剤を多用すると、その虫が減りますが他の虫も減ります。殺虫剤が原因だけで減るのではなく、例えば、
殺虫剤によってある害虫が減れば、それを食べていた生き物(それを益虫・益鳥などと言っている)が減ってしまいます。また害虫が増えて
殺虫剤・・・。そのうちに生物多様性は失われ、大切な虫例えば自然界のミツバチ類が激減して、植物の実や種がうまく実らないなどの現象が
起こります。現に、果物の栽培には大打撃となっているようです。

 
また、特に最近多用されるようになった除草剤について言えば、動物には直接影響がなさそうに見えますが、とんでもない誤解です。食物連
鎖の基盤にある小さな植物や大事なバクテリアが大きなダメージを受けており、それを餌にする生き物が生きていけなくなり、やがて生物多
様性は大きく失われます。比較的安全といわれる農薬類は早く分解して無害になると言われていますが、分解物が大きな作用をしなくなるも
のの、二酸化炭素や酸素や水などに分解するわけではなく、長期に及び残留します。人畜無害の基準内にある農薬類でも残留すれば、また
安全基準内にあるいくつかの農薬でも複合的にはたらけば、少なからず影響があると懸念されています。数多ある生き物の中には甚大な影
響を受けているものがあるかもしれません。極々微量でも農薬の種類によっては、トンボの幼虫(ヤゴ)が生き続けられるものの、羽化出来ず
トンボになれないなど、生物界に多く異常現象が見つかっています。このことは生物の一種であるヒト(人間)にとっても他人事ではないはずです。
昔よりもひどい花粉症で悩む人、さまざまなアレルギーで悩む人が増えていますが、
関係ないのでしょうか。
こんな今こそ、私たちの考え方・暮らし方をふりかえり、豊かな自然環境とは何かを真剣に見つめる必要があると考えます。 「生物多様性」と
いうキーワードは、これからの環境行政ばかりではなく、情操教育・環境教育、さらに、地方振興のための行政政策にまで関連して考える視点
ではないでしょうか。私たちは、話題が活発になればタバコの受動喫煙を話題にして路上も禁煙にするほど認識が変わるのですから、これらの
現象がみんなの話題になれば、大きなうねりが生まれることでしょう。

 自然環境(生物多様性)について、次のような面から見つめてみたいと思います。

 日本では、太古から、よく管理された里地・里山があり、そこで多くの種類・多くの数の生物が育まれてきました。そこは食料生産の場・生業の
拠点ですが、生物多様性を保ち、その生物多様性によって支えられてきた生業の拠点でもありました。さらに大きくながめれば、農・林・水産業
などは、単に食料の供給だけではなく、結果的に、空気や水の浄化・保全・供給、春夏秋冬それぞれに心を癒す美しい景観づくりなど、国土の
環境保全に大きな役割を果たしてきたと言えます。


 今では、利潤・効率、合理性に目が向き、里地(水田・畑)にも土地改良が全国的に施されました。水利の管理がうまくいくようになり、さらに、
農業の機械化、農薬・化学肥料などの研究も進みました。ふりかえってみると、実はこれが
生物多様性の面から見つめ直すべき要素をたくさん
含んでいました。
また、若い世代の第一次産業離れによる従事者の超高齢化、それに伴う耕作放棄地の急増という実態も、日本の豊かな自然
環境について考えるためには見逃せない要点と言えましょう。


 さらに具体的に見れば・・・

 @ 水利と生物多様性

 現在の日本のほとんどの水田は、土地改良により整備され、かんがい・排水も巧みに管理されており、当祖父江町地区でも、宮田用水からの
水田への給水も完璧になされています。ただ、給水期間は4月〜9月の期間に限り、排水もまた、機能的に設置された排水路へ流れ落ちていくよ
うになっています。これは圃場が生産工場のように合理化された手法であり、生産効率を高めるのに大いに貢献してきました。

しかし、自然環境、特に生き物の生息の面から見ると、非常に大きな問題が表出してきました。それは、三面コンクリート張りの排水路に落ちた
水は、もう田んぼにもどることがないことです。そのため、かつては田んぼで生まれ育っていたメダカやフナなどの魚類などが田んぼにもどること
ができません。さらに冬季には、水の供給が止まるために、水田は畑のように乾燥してしまいます。そのため、魚類や水生昆虫はおろか微生物
まで多くの生き物の生息にとっては大打撃となっています。


 A 農薬類と生物多様性

 農業における作業は適時に行わなければなりません。圃場の大規模化によって、作業は広範囲を短期間に済ます必要があるため、水田内除
草・畦畔除草には、作業効率の面から除草剤に頼らざるを得ない背景があります。殺虫剤・殺菌剤も、当面の生産性向上には大変都合のよいも
のです。農薬類にはいくつかの動植物への直接的影響を審査した基準により規制をされてはいますが、農薬類の使用は水田の水利環境の変化
と共に関わって、田んぼの生き物にとって極めて厳しい生息環境となっています。

生き物は1・2種〜数種の限られた種類では生存・繁殖は不可能です。生物はその多様性によって互いに支えられています。土の中にいてその
姿は目に見えない有用菌類・その他の微生物は、ありとあらゆる植物や動物の生息の基盤になっているものですが、田んぼを取りまく環境の変
化は、それらにも大きな影響があるはずです。水田内でも生物多様性が損なわれ、ひいては河川や海、畑地にもその影響はひろがってきている
のです。


 B 人の認識と生物多様性

 このような現象にさらに追い討ちをかけているのは、人の認識の問題があると考えられます。
より安全な農薬類に関する研究はなされてはいるものの、長年にわたり農薬類使用に頼ってきたことによる意識の変化(無認識化の傾向)でしょう。
そして、虫類を嫌ったりたんぼにすむ生き物さえも怖がったりする人が増えてきました。食材の見栄えの良さを求めてしまうようになった消費者の
認識も生物多様性を損なっていく大きな背景ではないでしょうか。

もともと、日本の国土は、世界でもまれに見る穏やかで豊かな環境要素をもっています。その特質・恩恵によって生活の糧を得ながら、風土にあ
った身体を育まれ文化をはぐくんできました。文明の発展、交流のグローバル化の中にあっても、本質を見失うことなく、真に豊かな自然環境の
保全を目指したいものだと思います。


 これから どんな取り組み(活動)をするのか

大きくは、次の4つを柱としています。

@ ホタル等生き物の生息調査

A 環境保全型水田(実験田)での取り組み   ※ 「実験田プロジェクト」へ

B ホタル保存活動   ※ 「ホタル里親プロジェクト」へ

C 広報・啓発


 @ ホタルの生息調査について

  経緯(会の設立以来の調査から)

  この会では設立以来15年間以上にわたり、会員が手分けをして祖父江町地区の自然自生ホタル(ヘイケボタル)の生息地域を可能な限り
  くまなく調べ 続けました。その膨大なデータは、約125箇所の観測地点ごとに経年変化をグラフにしたり、毎年の生息地と消滅地を祖父江
  町の地図にプロットしたりし てまとめられています。 その結果をみると、地域のみなさんのご協力をいただいてはいるものの、残念ながら
  生息数も生息地域も、減り続けています。


    これらの記録は、「よみがえれホタルたち〜調べ続けた15年の記録(2018.12発行)にまとめました。

  これからの調査

  生息現状調査は続けます。ただ、これまで、成虫の出現期間には、ほとんど毎夜調べに出かけるという、会員の膨大なエネルギーを要する
  調査法でし たが、蓄積した大量のデータがあり傾向もつかめたので、今後はもっと効率的な方法とし、新企画の実験田(後述)での調査に
  エネルギーを回そうと思っています。
 

活動の理念と取組